TALK4.

Bar CASK〈バーカスク〉

 

 

初めてお店に来られた方で、何を飲んでいいか

わからないと言われたら真っ先に樽を紹介します。

当店にしかないものですから。(伊藤)

 

初めて来たのに、何回か来たこと

あるんじゃないかと思うぐらいで(笑)。

 

ホッとするような落ち着きを感じます。(乃々)

 

伊藤正和(オーナー)

乃々(ウイスキー女子・インスタグラマー)

初めて来たのに常連のように落ち着ける店。

 

 

乃々 (お店の中を見て)とてもアットホームですよね。

全体的に木を基調としていて、照明も暖かみのある感じなので、仕事帰りで疲れた時にふらっと寄りたくなるような雰囲気だと思いました。

すごく落ち着きます。

伊藤 ありがとうございます。

初めて来たのに初めて来たとは思えないぐらい落ち着く、とよく言われます(笑)。

乃々 お一人で来られる方も多いんですか?

 

伊藤 そうですね。

特にコロナ禍を経てからは、お一人で来られるお客様がより多くなりました。

若い方はネットを見て来られる方が多いですね。あとは紹介が多いです。

 

乃々 女性のお客様も多いですか?

伊藤 営業中は他のお店を見ることはできないんでよくわからないんですが(笑)、いろんなお店に行かれているお客様からお話を聞くと、女性が多いよねとは言われます。

昨日も、一瞬でしたが6割ぐらいが女性のお客様でした。

 

乃々 へぇ〜！そうなんですね。

 

伊藤 女性同士とか、お一人じゃない方もいらっしゃいます。

昨日初めて来られた女性のお客様は「21歳で今日が誕生日です！初めてバーに来ました」と仰ってました。

 

乃々 ステキです。

 

伊藤 40代のご夫婦と仲良く話されていました(笑)。

 

乃々 お客様はお近くにお住まいの方が多いんですか。

 

伊藤 そうですね。ここ最近は徒歩圏内の方が多いかもしれないですね。

 

乃々 住んでる近くにこんな素敵なお店があったら来ちゃいますね(笑)。

女性がお一人で来られる時に、お店として気をつけていることってありますか?

 

伊藤 これは男性・女性関係ないところではありますが、距離感は常に考えています。

一人で飲みたいという方もいらっしゃいますし、話しかけてほしい方もいれば話しかけて欲しくないという方もいらっしゃいますから。

その空気をなるべく察知できれば、と思っています。

昨日もたまたまお一人で来られていた女性の方に、明日こういうの(今回の取材)があるんですが、どう思いますかって聞いたんですけど(笑)。

 

乃々 (笑)。

 

伊藤 そうしたら「やっぱり落ち着けるからついつい来ちゃう」とは言われましたね。

価格もちゃんとメニューがあってわかりやすいとか、ビールにも力を入れているしカクテルもあるので。

ウイスキーだけじゃなく、その時の気分でいろいろなお酒が飲めるし、つまみもあって、楽しみ方がたくさんあるところは店のポイントかもしれないです。

 

乃々 私も何回か来たことあるんじゃないかと思うぐらいで(笑)。なんだろう、お店の雰囲気なのかわからないんですけど。家に帰ってきたみたいな、ホッとするような落ち着きを感じます。

オーナーの印象も大きいですよね。

 

(壁に掲げられた黒板の人気定番メニュー、本日のおすすめメニューを指して)

 

乃々 お食事のメニューも充実していますよね。

伊藤 イタリアンとかフレンチ風のメニューは委託開発しているんです。

 

乃々 そうなんですか！

 

伊藤 私の弟〈義弟〉が病院で料理を作っているんですが、そこの先輩が元々ホテルでシェフをやっていまして、オペレーションが少なく美味しいもので、お酒がすすむようなメニューを当店のためだけに開発して作ってくれてるんです。

毎回試食会を行って、こういうのどうかな、ああいうのどうかなってお互い言い合って、定番のものもありますけど、タイミング見て変えていってます。

 

 

 

所有数日本一。

 

樽詰めウイスキーへの情熱。

 

 

伊藤 コロナ後は、コロナ前と比べると、客層もだいぶ変わってきました。

以前は男性と女性が一緒にお見えになる機会があって、女性の方はフレッシュフルーツのカクテルか、優しいタイプのカクテルを飲まれることが多かったんですが、コロナ以降はお一人で来られる方が多くなって。

ほとんどの方がウイスキー中心に飲まれています。

 

乃々 そうなんですね！

お店の得意としているジャンルのウイスキーって何でしょうか?

 

伊藤 やっぱり樽で熟成したウイスキーですね。

 

乃々 私も気になりました。(店内に並んでいる樽を見て)すごいですよね。

ご自身で樽を買い付けてるんですか?

 

伊藤 買い付けは1種類だけで、ほとんどがオフィシャルを勝手に自分で熟成させています。

 

乃々 面白いですね。

 

伊藤 元々インポートの樽詰めウイスキーを店に入れてた時期があったんですが、なくなっちゃうと空樽になるので、勿体ないから何か入れてみようと思ったのが始まりです。

それ以来、どこかに空樽がないかと探し出して、買ったり、いただいたりしました。

 

乃々 このサイズの樽って今も売ってるんですか?

 

伊藤 今はもうないですね。前はヤフオクとかネットのオークションに普通にあったのですが、熟成可能な樽は今は見かけないです。

 

 

乃々 管理が大変だと思うんですけど、どれぐらいの期間で熟成されるものなんですか。

 

伊藤 樽のサイズに関わらず大体10リッターぐらい入れてるんですが、6ヶ月から8ヵ月ぐらい経つとだいぶ変わってきます。

飲み頃は季節によって変化の仕方が全然変わりますし、減っていけば減っていくほど熟成するので、たまに過熟気味になる時があって。

過熟しそうになった時は継ぎ足して、熟成していきます。

 

乃々 樽は今いくつあるんですか?

 

伊藤 今は25樽あります。

乃々 25樽!すごいですね!これだけの樽を置いてある店って他にないんじゃないですか。

伊藤 10樽とか置いてある店は他にも知っていますが、たぶん日本でいちばん多いと思います。

ジャパニーズウイスキーではニッカウヰスキーが多いですが、店にある樽の過去イチの最高傑作はニッカの余市ですね。

“NIIKA WHISKY DISTILLING“の樽ですから。

 

乃々 (樽を見て)本当だ….。

 

伊藤 あれはリメイクで、元々ニッカが販売していたブランデーの樽なんですが、30樽か40樽しかなかったものがネットに出てたのを見て、もう何年も空のままだとしても絶対に欲しいと思って。

それで実際に手に入れて水を入れたらダダ漏れ(笑)。

それをポリバケツ買ってきて水に入れて出してを繰り返して、1ヵ月半かかってようやく締まって使いものになったんです。

ウイスキーのボトルを語るのも面白いんですけど、蒸留所で体験できるようなことを、こういうところで体験できるのも面白いんじゃないかと思います。

 

 

 

今日の味は今日だけのもの。

 

一期一会のウイスキー。

 

乃々 初めて来店された方へオススメのウイスキーはありますか?

 

伊藤 初めてお店に来られた方で、何を飲んでいいかわからないと言われたら真っ先に樽を紹介します。

ここにしかないものですから。

ハイボールだとわかりにくいですが、ロック、ストレートの場合はなるべく現行(ボトル)のものをつけて、比較してもらっています。

ウイスキーだと「ベンリアック」のスモーキーテンです。

これは、京都の伏見に製樽会社があって、主にワインをやられているんですが「こんなことやってて樽が欲しいんだけど何かない？」て聞いたら、「買い付けに行く時があるから」と、スペインで20~30年経った家財をリメイクして作った樽があったんです。

樽の外側は削って磨いてるんですけど、樽の中はそのままでシェリー感がすごく良くて。

 

(ここで「ベンリアック」の樽詰めと現行ボトルそれぞれをグラスに注ぐ)

 

 

乃々 (目の前に置かれたグラスを見て)すごくいい色！

ありがとうございます。どっちから飲んだ方がいいでしょう?

 

伊藤 やっぱり現行でしょうか。

 

乃々 いただきます。(一口飲んで)うん！美味しい！

けっこうスモーキーですよね。

 

 

伊藤 そうですね。

現行は、スペイサイドにしてはかなりスモーキーな方だとは思います。

樽の方は、あまりアイラでシェリーって少ないんですが、スモーキーとシェリーという組み合わせはなかなかないと思いますので面白いかと。

 

乃々 (続いて樽詰めを一口飲む)

ああ、すごい美味しい！シェリーのどっしりした感じと、レーズンとか熟したフルーツの感じが出るんですね。

面白い！全然違いますね。

 

伊藤 その顔が見たかったです(笑)。

 

乃々 (笑)。

美味しい。嫌な渋味とか全然ないですね。

 

伊藤 そうですね。

 

乃々 飲み比べできるのが面白いですよね。

これは何ヵ月ぐらい置いてるんですか?

 

伊藤 これがまた複雑で(笑)。

「ベンリアック」、それと「モンキーショルダー」のアメリカンオークの樽は常に置いてるんですけど、味をコントロールするために樽をそれぞれもう2つ置いて、予備熟成させています。

3ヵ月、6ヵ月ぐらいの熟成を継ぎ足していくんです。

この(樽を指して)フレンチオークは柔らかくクセのない樽なので、そこに熟成したものを入れて、なくなる前に予備熟成されたウイスキーを継ぎ足し継ぎ足ししています。

この状態になるまで期間で言うと1年ぐらい。小さい樽なので変化の度合いは2、3年じゃないでしょうか。

樽って絶対にいいものになることばかりじゃないんです。渋味とかエグ味とか出ることもありますから。

 

乃々 どうなるかわかんないですもんね。

 

伊藤 だから、今日はこの味なんですよ(笑)。

 

乃々 そうですよね!一期一会ですよね。

来るタイミング、飲むタイミングによっても毎回味が違うんですよね。

 

伊藤 やっぱり、渋味やエグ味は樽は入れっぱなしにしちゃうとどうしても出るんですが、一旦樽に入れたら出せないし、だから保険も兼ねて予備熟成の為に樽が増えていったんです(笑)。

 

乃々 ハハハ!

 

伊藤 待つ時間が必要ですからね。

今年が26年目で25周年、樽が25個ですから、1年に1個のペースで増えています(笑)。

今は自分のコントロールもだいぶ進歩しましたけど、最初はウイスキーを冒涜していると言われながらやっていました(笑)。

完成したものをなんでいじる必要があるんだって言われて。

 

乃々 いろんな意見がありますよね。

実験みたいな要素もありますし。

 

伊藤 だけど、ほとんどのお客様が樽を飲みにいらっしゃる方ばかりで、ボトルが出ないんですよ(笑)。

こっちとしては出て欲しいんですけど。まだ残ってるんだっていうお宝ボトルも意外とありますから。

 

乃々 そうなんですね(笑)。樽は今、ここでしか飲めないですもんね。

今日はありがとうございました！

 

 

 

 

地下鉄覚王山駅を出て、北へ少し歩を進めた建物の地下に「BAR CASK」はひっそりと佇んでいます。

オープンは1998年。

木を基調にした温もりと落ち着きを感じさせる奥行きのある店内には、130年前のアンティークのアップライトピアノがさりげなく置かれ、ウイスキーが熟成されている幾つものクラシックな樽が並べられ、東山通の喧騒や日泰寺参道の賑わいだけでなく、物々しい世間とは一線を画しているような悠然とした印象を受けました。

中央の幅の広い重厚感のあるカウンターはオーナーが以前務めていた老舗のバーから譲り受けた、50年以上もの歴史を継承する物であり、手前が窪んで肘置きになっているのはスタンドスタイルのバーカウンターの名残りです。

お酒だけでなく食事のメニューも充実し、豚ロースのカツサンドは美味しいと定評。

創業時と比べると、最近は若いお客様が増えてきたとのことです。

新しい層のお客様が古くからの常連の方たちとカウンターに並んでグラスを傾けている様は、さながらお店への愛が次の世代へと受け継がれているような印象を抱きました。

 

 

 

 

Bar CASK

住所 〒464-0064 名古屋市千種区山門町2-83-3グルメコート覚王山B1

TEL 052–752-8200

HP https://www.barcask.com

営業時間 18:00~1:00〈0:00〉

日曜・祝日定休

PROFILE

 

伊藤　正和さん（いとう　まさかず）

1998年、当時名古屋ではまだ珍しい「樽」を使って、独自のバランスで熟成させたウイスキーを中心としたBARの店主。今までの経験とご自身のアイディアを織り交ぜた熟成の技で様々なウイスキーを進化・変化させている。

 

インタビュアー

乃々さん（のの）

Instagramを中心に趣味のウイスキーやBAR情報を発信。

社会人1年目からウイスキーにハマり蒸留所の見学など様々な場面で情報を発信している。

乃々さんのInstagramはこちら

 

 

 

インタビュアー

乃々さん（のの）

Instagramを中心に趣味のウイスキーやBAR情報を発信。

社会人1年目からウイスキーにハマり蒸留所の見学など様々な場面で情報を発信している。

乃々さんのInstagramはこちら

 

 

文

山本格司

トマリギ研究所

 

編集

清水結菜

トマリギ研究所